ある日、玄関を開けるとドアの側に生まれたばかりであろう子猫が横たわっていた。
生まれて間もないであろうその猫は、ひどく痩せ細っていて肩で呼吸をしており、とても苦しそうだった。
全身ノミに食われていて、毛並みは悪く、目もうつろだった。
久しぶりに家族が揃った休日、テーマパークに行く予定だったが、予定を変更し、猫を車に乗せ動物病院に向かった。
診察の結果、獣医から危険な状態であることを聞かされた。
高額な治療費がかかることも。
私たち家族は、皆動物が大好きで、だからこそこれまで動物を飼うことを避けてきた。
けれど、その時に家族皆、この子猫を家族として迎えいれる覚悟ができていた。
子猫の治療をスタッフに託し回復を祈った。
けれど、子猫はその日の夕方治療の甲斐なく私たちの目の前で息を引き取った。
たった数時間だったけれど、私たちは子猫の家族だった。
ちび太という名前もつけていた。
とてつもなく悲しくて涙が止まらなかった。
子猫とお別れして数日後、獣医の先生から一通の手紙が届いた。
そこには、私たち家族の心情をいたわるお便りと、ちび太の写真が添えてあった。
写真で眠るその子猫は、あのみすぼらしいちび太ではなく、とても美しい子猫。
でも紛れもなくあのちび太だった。
側には美しい花と、高級そうなキャットフード。
ちび太の一生は飢えに苦しみ、身体の痒みなど、苦しいことしかなかったかもしれない。
でも、最期の最期で素晴らしいスタッフの方々に巡り会うことができ、天国に送り出していただくことができた。
私たち家族の胸の痛みも緩和された。
動物病院ではよくあることかもしれない、小さな小さな親切心かもしれない。
けれど、その優しさでちび太も私たちも本当に救われた。
涙が止まらなかった。
でも、これはあのちび太を失った時の涙ではなく感謝の涙だった。