2016年5月28日土曜日

人に席を譲る時

 
 先日、熱海に行くのに電車に乗っていた際、小田原駅あたりで観光客とおぼしき数名の男性たちが乗ってきた。70代くらいで、リュックサックが重たそうな人たちであった。
少し席が空いていて、自分は少し離れて座っていた。様子を見ていると、そのうちの一人を抜かして、あとは座ることができていた。

 バッグは重そうだが、これから旅行で熱海や伊東に向かうのだろう顔は楽しげだった。
すると、その人たちの横に座って参考書を見ていた中学生くらいの男の子が立ち上がり、
その一人だけ立っていた旅行者の方に向かい、きちんと目を合わせた上で席を示しながら、「どうぞ」と空けてくれていた。

 その男性はおそらくそんなに長時間乗車するようでもなかったし、中学生くらいの子がきちんと話しかけてきたので、少し驚いたような感じで「あ、ありがとう」と言っていた。

 よくある光景と言えばよくあるのだが、その中学生の言動に偉いな、と感じた。
大人、子供と言わずに実は人に席を譲るというのは意外と勇気がいる。
 理由は様々だが、「疲れているし・・・」というのを除くと多いのが、「気恥ずかしい」「拒絶されたらどうしよう」だと思う。

 よく老年の方や、妊婦さんやけが人の方が目の前に立つと、すっといきなり立ち上がってどこか(おそらく別車輌)へ行ってしまう人。
新聞の投稿欄や、インターネット上の体験談などで良く目にする、譲ろうとしたら、「(譲られる方の理由は様々だろうが)失礼な!」なんて話。

 席を譲ってあげたいけれど、ちょっとした気遣いなのでそれなのに傷つくのは怖いというのはある。だが、譲られる人ももちろん人間なので、その時の精神的な状態、シチュエーションによって返答も変わる。

 でもやっぱり、せっかく譲ったのにそれを拒絶、それどころか罵詈雑言を浴びたなんてなると嫌な気持ちになるし、場合によっては二度と席なんて譲りたくない!という傷心が続いてしまうことも、ままあるかもしれない。
 だが、そこで黙って席を空けるのも、何で自分の前に立つのという嫌悪感を露わにしながら急に立ち上がってどこかへ退いてしまうのも、それも逆に失礼なことではないだろうか。

 勿論、こちらが期待した通りの反応、返答をくれないこともある。
 ただどうせ席を譲るなら、やはり先ほどの中学生のように、きちんと譲る相手を見据えた上で、「どうぞ」と言ってあげたい。その方が、「譲ってあげる」のではなく、「お譲りします」という誠意ある対応の仕方だと思う。


 席を譲ること自体がありそうで、しかしすごく回数の多い経験ではないので、もし嫌な体験をしたことがあっても、それはそれ、たまにはそういうこともあるさ、と割り切った上で、機会がある時はいつでも、「どうぞ」ときちんと席を譲ってあげるような気持ちを持ちたい。